あるところにお金持ちの男がいました。家の前で座ってくつろいでいると、村でも貧乏で有名なクワイという男が通りがかり、ふたりは話をしました。クワイは男にたずねました。
「どうやったらそんなにお金持ちになれるのか」
「私はもともとお金持ちだったわけじゃないぞ。私の父も母もそれは働き者で、朝から晩まで働いて働いて、それでお金を貯めたんだ」
クワイは、それから、言われたとおり、汗水流していっしょうけんめい働きました。
それからしばらくしたある日、クワイに会ったお金持ちの男は、たずねました。
「どうだい、金は貯まったかい?」
「ええ、おかげさまで」
「どうやって、金持ちになった?」
「あなたに言われたとおり、いっしょうけんめい働いただけですよ、毎日使うお金といえば、食べるものだけ。あとは全部貯めたんです」
「そうか、使うお金がそれだけなら、金も貯まるか。ま、食べものだけは仕方ないわな、人間、食べずにはいられないからな。」
「何も買わないですむときもありましたよ。たとえば、今日みたいにあなたのうちがごちそうのときは、それはもうおいしそうな匂いがたちこめるものだから、ここへ来て、ごはんをいただくんです。」
と言い終わると、クワイは主人のために用意されたごちそうのところへ行って、持ってきた自分のごはんをおいしそうに食べ始めました。
「そりゃ、うちの飯を盗んだと同じことじゃないか」
「盗んでませんよ。匂いが風にのって、勝手にきたんですから」
「ここで飯を食べたことはまあいい、しかしうちのごちそうの匂いをおかずに、飯を食べたことは許せん」とお金持ちの男は怒り出しました。
ふたりはお互い譲り合わず、とうとうどちらが正しいか裁判所に決めてもらうことにしました。
裁判所の判決はといえば・・・
「金持ちの男が言っている、クワイが匂いを盗んだというのは確かにそのとおりだ。よって、公正を規すために、クワイにはそのお金を払わせることにする。」と言うと、クワイの持ってきたお金を鏡の前に置き、金持ちの男に鏡に映ったお金を取るように言いました。
クワイは「これは名判決!」と手をたたきましたとさ。
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