チュムじいさんには2人の婿がいました。ひとりは上の娘と結婚していて、名前をヤイといい、もうひとりは、下の娘のだんなで、レックといいました。ヤイはいい格好しいでした。チュムじいさんにもおせじを言っては取り入ろうとし、何かにつけてはレックと張り合って、告げ口ばかりしていました。レックのほうは、口数の少ない働き者でした。
チュムじいさんの家にはココナツ畑がありました。
ある日、田んぼを耕し終わったレックは、牛の世話をしようと、田んぼの真ん中に牛を連れて行きました。ところが、レックの牛は、近くにいた牛とけんかになり、足が折れてしまいました。それを見たヤイは、チュムじいさんのところに飛んで行って告げ口しました。チュムじいさんは
「放っておけ」
と言うだけでした。それからもヤイは、何かとチュムじいさんに告げ口するのですが、
「放っておけ」
と言われるばかり。全然相手にしてもらえないので、ヤイもこりごりして、告げ口しなくなりました。
そんなある日、じいさんはココナツ畑に行くと、食べごろのココナツがたくさんなっているのを見つけたので、ヤイとレックに獲ってくるように言いました。ヤイはココナツ畑に着くと、自分は下でココナツを受け取るから、レックに上って行って、獲ってくるように言いました。ヤイは自分が、慣れいてる楽な仕事のほうをとったのです。ココナツの木を5本獲り終えたところで、ココナツが、上から落ちてきて、ヤイの頭にゴツーンと当たり、ヤイは頭から血を流しました。レックはけがをしたヤイを家へつれて帰りました。家に着くとヤイはすぐさま、チュムじいさんに
「レックが、レックが、ココナツを投げつけたんだ」
と言いつけましたが、チュムじいさんは、ヤイの頭をさわって、一言だけ言いました。
「放っておけ」
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